小川醸造場

残せるものは残し、
新しい息吹を感じる場所。2021.10

僕が幼い頃に、父親が味噌屋さんの仕事をしている
というのはうっすらと記憶には残っていました。
それから何十年後、見覚えのない電話番号から着信が
あったところから、小川醸造場の四代目・小川さんと
僕の物語が始まりました。

小川さん
小川さんと話をしている様子の写真

「頼りになる先輩がいなくなってしまって、どうしようという気持ちだったね」

父親の死について語る小川さんは、少しの間黙り込んでいました。父親を慕ってくれていた小川さんだからこそ出てくる言葉です。そして、あの日の想いを語り始めてくれました。

屋外の写真

「台風の被害に遭って、味噌を作る環境ではなくなってしまった。さてどうしよう。頼れる先輩はもうこの世にはいない。絶望的な状況の中で、ふと思い出したんですよね。そういえば、息子さんが建築関係の仕事をやってるって聞いたことがあるなって」

知人から連絡先を聞いた小川さんは、すぐ僕に電話をくれました。状況を聞けば聞くほど、これは僕がやらなきゃいけない、ぜひやらして欲しいと思いました。数日後、初めて訪れる小川醸造場は、想像を絶する被害に見舞われていました。

「この場所で、もう一度味噌を作るんだという想いはあったんだけど、まずは何から手を付けたらいいのかすらわからなくてね」

入り口付近の外観写真 広い土間の写真

僕と小川さんの再建への道が始まりました。小川さんの願いは、壊して作り直すのではなく、残せる部分は残して使いたいというものでした。小川さんは「難しい話かなとは思ったけどね」と、当時の胸中を教えてくれました。まずは建物の柱を1本ずつ確認するという作業からのスタート。耐震強度を高めるため、古い建物と父が手掛けた建物を接続する工法をとりました。柱の状況が1本ずつ異なるため、接続方法をその場で考えながら工事を進めたのです。また、僕は残せるものは残しながらも新しい息吹を感じるような設計は出来ないかなと考えていました。たとえば塀は、間柱を使って格子状にしてみたり。

高い天井の写真

「最初提案された時はイメージできなかったんだけど、見本を作ってきてくれたんでしたよね。そこまでやってくれるんだって思いました」

現場でやり取りしながら、小川さんには実際に目視してもらって、いいねとか、もう少しこうしたいねとか。あーでもないこーでもないというやり取りができました。

設備の写真 コンテナに入ったたくさんの大豆の写真

「味噌作りは水仕事だから、水の流れが大事なんですよ。設計の段階でかなり色々話し合って、関さんもスムーズな仕上がりを意識してくれたから、使いやすい。機械関係の設置もね、微調整しながら、工夫しながらやっています」

もう一度ここから味噌作りをという小川さんの願いが、少しずつ結実していく姿を目の当たりにして、いまの仕事の醍醐味を味わいました。

充填室への扉の写真

「関工務店さんって、やっぱり先代の印象強いんですよ。無口でね、お父さん。二代目は言葉で伝えてくれる。話してくれる。そういうフラットなやり取りができる部分は、先代よりもいいものを持ってるかもしれないよね。新しい関工務店という感じで。ずっと気にかけてくれてるから、なんだか他人じゃないような気がするんですよね」

父を慕ってくれている人からの言葉は、僕にどれだけの勇気を与えてくれたかわかりません。

建築概要

施工種別
製造所新築工事、改修工事
施工箇所
土蔵、塀
構造
木造
所在地
長野市
見どころ
耐震補強、格子塀、土蔵