自然素材に囲まれた、
安心と健康を感じる家。2021.10
「この状況を楽しまなきゃ」――。
台風被害で暮らしが奪われた当事者のひとり・金箱さんの
口から出たこの言葉に、僕は今でも支えられています。
息の合うやり取りをさせてもらった、金箱さんと僕の物語。
金箱さんは父と7つ違い。普段から仲良く釣りに行ったりするような仲間でした。父の死と水害。このふたつのきっかけによって僕は東京から長野へと戻り、金箱さんと出会いました。
「お父さんの意思もあるし、博之君。頼むよ」
金箱さんから工事の依頼を受けた時の重圧は正直ものすごかったです。台風被害によって家屋が損壊した金箱さんのお宅は、新築建て替え工事によって新たな営みの場所を作る大きな仕事。父の手伝いで新築工事をやらせてもらったことはありましたが、ゼロからやることは初めてでした。
「やってもらえるか?って聞いたら、“誠心誠意やらせてもらいます”って答えたんだよなぁ博之君は。だったら、もう好きにやれよって思った。誠心誠意なんて、相当の覚悟がないと言えないからさ。覚悟を決めたやつは強いから」
こうして、僕の初めての大仕事は幕を開けたのです。
いざ動き出してみると、金箱さんと僕の二人三脚で工事は進みました。家の壁は落ち着いた色にしたいと言われたら、僕は3色くら候補を持ってくる。候補の中には、金箱さんが思い描いていた色がある。そんな阿吽のような、ツーカーのような、想いが通じ合うところはすごくありました。
いちばん印象的なのは、床の間の脇にある“床柱”です。金箱さんは何十年も前から、床柱をヒノキではなく、あすなろという木で作りたいと思っていたのです。
「明日はヒノキになろうって言うじゃない。そのさ、成長しようっていうか、もうちょっとがんばろうっていうひたむきさが好きでさぁ。なろう、なろう、あすなろうって」
僕はなんとか金箱さんの期待に応えようと、何件もの材木屋さんに問い合わせ、石川県にあすなろを木材として扱っている業者さんをようやく見つけました。金箱さんに伝えると、すかさず「博之君。一緒に見に行こう」と言われました。僕に断る理由はありません。
「そうそう。それで、あさ5時に出発したんだよな。帰り道で大雪降って大変だったなぁ」
当時を思い出す金箱さんは、柔和な表情を浮かべていました。
床柱のほかにも、なるべく自然のものを使うようにする。それが僕が考えたコンセプトでした。畳や天井の材料は、それっぽいものではない、自然から生まれた材料を使う。コストとの見合いも当然ありますけど、そこはとことん提案と相談を繰り返しました。
金箱さんの奥様が家について語ってくれました。
「自然素材を使ってくれたから、そういう意味での安心感はすごくあるのよ。健康的で清潔で、ナチュラルな家だから。そりゃ安心だよね」
健康な家。健康でいられるから安心感を抱ける空間。関工務店の目指すべき指標のひとつだなと思った瞬間です。続けて金箱さんも言います。
「後悔のない家づくりができたのは、博之君のおかげ。お父さんはすごい人だった。だけど、君だってすごいと俺は思っている。こんなに年が離れているのに気軽に言い合えて、付き合えるのは博之君だからだと思う」
存在感のある父を認めるように、自分のことも認めてくれる金箱さん。多くのお施主様とお仕事をさせて頂いて、少し気持ちが滅入っていた時に「いまの状況を楽しまなきゃ」と言ってくれたのも金箱さんでした。水害で絶望的な気分であったにも関わらず、僕に楽しめと言えるその力強さには、この先もずっと救われるのかもしれません。
建築概要
- 施工種別
- 新築工事
- 延べ床面積
- 207㎡(63坪)
- 所在地
- 長野市
- 見どころ
- 自然素材、床の間