笑い声に包まれる、
愛おしい空間。2021.10
東京で建築の仕事をしていた僕が、長野へ戻る
きっかけになった家。関工務店といえば父親だった時代に、
初めて僕に直接依頼をしてくれた、下川さんと僕の物語。
決断の物語。
下川さんとの出会いは地域の消防活動から。改修工事と倉庫の建て替え工事を任せて頂いたのですが、数年前に父親がリフォームを担当させてもらっていたお宅でもあります。
「貢物で、高いメロンあげたんだよ。ちゃんとやってくれよってさ。覚えてる?」
と言って豪快に笑う、とにかく冗談ばっかり言う愛すべきお施主様です。台風による甚大な被害で、暮らしも仕事も滞ってしまった下川さんからは「とにかく前のままにしてくれる?」という要望でした。リフォームした時のまま、台風の前のまま。あの時のままの間取りにして欲しいと。
東京での仕事を引き上げて、家業である関工務店の手伝いをしようと決心したのは、下川さんから直接仕事のご依頼を受けたことがとても大きなきっかけです。父親ではなく、僕に連絡をくれた。
その喜びと強い責任感に武者震いしたことを覚えています。台風被害という天災は、僕の人生も大きく変えたのです。
「一切任せるよ、一切!ぜーんぶ!じゃ、あと頼んだよっ!って、俺言ったんだよね」
おどけた調子で当時のやり取りを語る下川さん。確かにすべてをお任せ頂き、身の引き締まる思いで工事に取り掛かりました。僕は工事が滞ることなく進めることに集中しながら、元の暮らしにほんの少しのゆとりを与えられないかなとぼんやり考えていました。
「博之君のアイデアでさ、ダイニングの壁にタイルを使ってくれたじゃない?これが娘が喜んじゃってさぁ!“関さん、やるじゃん”なんて生意気言ってさぁ!」
ほんの少しのゆとりを感じる施しのひとつが、このダイニングにタイルを使うというアイデアでした。
「センスが違うんだよなぁやっぱセンスがさ!俺にはないんだよなぁそういうのが!」
褒めてくれているのか、茶化しているのかわからないところも下川さんの人柄の面白さです。
家屋の改修は文字通りお任せ。僕の提案を「面白いな!」「それいいな!」と、どんどん受け入れてくれた下川さんですが、農業用倉庫の建て替え工事は真逆でした。
「やっぱ農業用倉庫だからさ、農業やってないとわかんないわけ。どこに何を置いたら便利とか。だから、博之君にはこっちからどんどん言わせてもらって」
農業を営む人にしかわからない視点で次々と提案をしてくれた下川さん。頼り合う間柄。僕と下川さんは、お互いの信頼感によって元の暮らし、今までどおりの仕事を取り戻しました。
下川さんの隣りで話を聞いていた奥様が、愛おしさのある暮らしについて語ってくれました。
「生活していくとどんどん汚れていくでしょう?でもね、その汚れも愛おしんでいきたいんだよね。あんな酷い目に遭ったんだもん。何でも愛していかなきゃ。そういう家がホッとするし、だから安心って思うのかもね」
「まぁ、生活が戻ったってのが、いちばんだなぁ!博之君には無理言っちまったけどさ、これから先も何かあったら関工務店さんにお願いするから!高いメロンもあげたしさ!」
改修が終わった下川さんの家のベランダに洗濯物が干してあるのを目にして「生活が戻ったんだ」と感じたことを、大きな笑い声を聞きながらふと思い出しました。
建築概要
- 施工種別
- 倉庫新築工事、改修工事
- 施工箇所
- LDK、風呂、トイレ、事務所
- 構造
- 木造
- 所在地
- 長野市
- 見どころ
- 自然素材、ダイニング