関工務店

「博之君。うちの工事は最後でいいからさ」

水害被害に伴う改修工事を担当させてもらったのが関浩一さんの家。父親の代からお付き合いのあるお施主様から頂いたこの一言は、ずっと心の中に残っています。優しさと信頼の言葉。台風19号によって奪われた暮らしを、なんとか立て直そうとみんなが必死だったあの頃。たくさんのお宅を巡って話を聞いて、被害状況を見る毎日を送っていた僕に、浩一さんの言葉は沁みました。
関さんからの要望は『元に戻して欲しい』というただひとつ。住めない家を、住める家に。僕は住めない家を今まで以上に住める家にしようと決めました。家の間取りはほぼ変えずに、ほんの少しの〈暮らしの上積み〉をと考えたのです。

「家なんて作ったことないからわからなかったけど、とにかく片っ端から相談したよね。何とか良い家にしようって。それを博之君が形にしてくれる。そんな感じでやったよね」

浩一さんは家づくりのアイデアをたくさん持っていました。家全体とそこで暮らすイメージがきちんと描けていた。何とか良い家にしたい。同じ想いで暮らしの再建に取り組みました。

ご家族が集まるダイニング・キッチンは特にこだわりました。工事を進める中で、天井に立派な梁があることがわかったんです。この梁を活かさない手はない。ぐっと天井を高くして、梁を見せる構造にしようと提案させてもらいました。

「とってもいいダイニング・キッチンにしてもらったから、テーブルもちょっとこだわったりさ、観葉植物なんて置いてみたりしてね。そうやって暮らしに少しこだわるようになったなぁ」

浩一さんが抱く〈暮らしに少しのこだわりを持つ〉という感覚は、まさに僕の目指した〈暮らしの上積み〉そのものでした。自分の手で少しだけ暮らしをアップデートしたくなる。そう思える家をご提供できたのかもしれません。

「家を作り直してからすべてが良い方向に変わったんだよ。それが安心につながっている気がする。あの頃のことはいまでも思い出したくないけど、博之君が東京から戻ってきてくれてさ。町のために駆けずり回ってくれたじゃない。もっと華々しく都会で活躍だって出来ただろうに、地元へ戻ってきてくれて。博之君の決断が、俺たちに博之君っていう〈拠り所〉を生み出してくれたんだ」

帰り際に浩一さんが話してくれた、あの頃の気持ち。優しい言葉の数々に思わず「ありがとうございます」と感謝の言葉を伝えると、浩一さんは笑顔で言いました。

「博之君は優しいからさ。人にも優しいし、仕事の進め方だって優しかった。わからないことは何度でも教えてくれて。優しいんだよ」

僕はその言葉を聞いて思いました。浩一さんほど優しい人はいないよなぁと。